妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~
「あっ!!」

一月前の出来事に思いを馳せていた呉羽は、いきなり足を止めて叫んだ。

「おい! お前があのとき、やたら急いで帰りたがるから、報酬をもらい損ねたじゃないか! ああっ不覚! 今の今まで、忘れていた!」

呉羽はそはや丸の前に回ると、襟を掴んで噛み付いた。
だがそはや丸は、ちらりと呉羽を見ただけで、足を止めることなく歩き続ける。

「もぅ! こんなことは初めてだ。大体何だってお前はあのとき、あんな急いで帰ろうとしてたんだ。三条邸への道中でも、何か右丸と喧嘩してたみたいだし、三条邸から蓮台野に帰り着くまで、引っ張られ通しで、えらい疲れたんだぞ。お前は暗くても平気かもしれんが、私は一応、人間なんだからな。足元が見えないのに、ぐいぐい引っ張るんじゃないよ」

そはや丸の前を、後ろ向きに歩きながら、ここぞとばかりに文句を言う呉羽を、珍しく黙って見ていたそはや丸だが、不意に足を止めた。

「じゃあ、抱き上げれば良かったか」

そはや丸の言葉に、呉羽は深く考えずに頷いた。

「そうだな。できれば、そうしてもらいたかった・・・・・・って、おい!」

いきなり投げて寄越された桶を慌てて受け取った呉羽の足が、宙に浮いた。

気づくと、そはや丸の両腕に抱えられている。

「・・・・・・今じゃない!」

再び噛み付く呉羽に、ふんと鼻で笑い、そはや丸は、そのまま蓮台野の屋敷へと歩き出した。
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