妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~
まぁ、このどこか居丈高な態度からして、睨んだとおり、姫君なのだろう。

「迷った? お屋敷の中で?」

多子と名乗った姫君は、袖で口元を覆い、少し馬鹿にしたように笑って言った。

「わたくしのような者にとっては、このような広いお屋敷、入ったこともございませぬので」

実際は貴族からの依頼事も受けるため、それなりに広い屋敷に入ったことぐらい結構あるのだが、生意気な小娘の相手は短いに限る。
それにここまで大きな屋敷は確かに初めてなので、嘘ではない。

「いいわ。道案内してあげる。父上のところかしら?」

素っ気ない呉羽の言葉も、屋敷を褒めたことで相殺になったのか、気を悪くした様子もなく、多子は小首を傾げて呉羽を見上げた。

「いえ。どちらのほうへ行けばいいのかだけ、お教えいただければ・・・・・・」

『馬鹿か、お前は。回っただけで方向がわからなくなる奴が、それだけの説明で、無事目的地に辿り着けるわけねーだろ!』

多子の申し出を、何気に拒否しようとした呉羽を、そはや丸が叱責する。

確かに呉羽のこの方向音痴さ加減では、素直に多子に目的地まで連れて行ってもらったほうが確実どころか、むしろそうしなければ、永遠に目的地には辿り着けない可能性も、かなり高い。
呉羽もそれはわかっているが、反射的に断ってしまったのだ。

呉羽は子供が苦手なのだ。

普通の子供も苦手なのに、このような小生意気な小娘など、関わり合いになどなりたくない。

だが。

「いや・・・・・・。やはり、お願いできますでしょうか・・・・・・」

眉間に深く皺を刻んだ呉羽は、苦渋の決断といった感じで、小さく呟いた。
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