妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~
頼長は、しばらく呉羽を見つめていたが、しばしの沈黙の後、僅かに目を細めて言った。

「よい。賢い者は、むやみと己のことを喋らぬものだ」

脇息にもたれていた頼長は、身を起こすと、扇を己の顎に当てながら、口を開いた。

「此度のわしの依頼を言う前に、お主の今までの仕事を、軽く聞いておこうか。大体どのようなことをしてきたのだ? あまり大々的に活動は、しておらぬようだな?」

「・・・・・・そのわたくしに、よくぞ目を付けられましたね」

頼長の言うとおり、呉羽は主に民を相手に、簡単な憑き物落としをやっているだけの、しがない外法師だ。
大抵は何てことのない憑き物だが、稀に強力な物の怪に出会うこともある。
だが、そはや丸に敵う物の怪など、そういない。

まじないのようなものも、依頼によっては引き受けるが、呉羽はただ念じるだけのまじないより、そはや丸を振り回す憑き物落としや物の怪退治のほうが、得意である。

貴族は、公に認められた陰陽師でないからこそ、金次第で何でも引き受ける外法師を忌み嫌うものが多いが、それこそ公にできないことを頼むときには、外法師を使う。
外法師はその名の通り、禁じられている呪法を得意とする者が多いのだ。

尤も陰陽寮に属さない術者全てを外法師と呼ぶ向きもあるため、実際には呉羽のように‘外法’を使わない者まで外法師と呼ばれているのが現実なのだが。

呪法が成功し、なおかつその相手が大物だったりすると、貴族からは頼りにされるし、報酬も莫大だ。
そういうことで、名を売っていく輩もいるが、呉羽は貴族の依頼を受けたことがあるといっても、せいぜいお抱え陰陽師を持たない、下級貴族の簡単な依頼だ。
とても権門中の権門、藤原氏の縁者に繋がる依頼など・・・・・・。

はっと呉羽の思考が、頭に浮かんだ一人の男で止まった。
< 18 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop