妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~
左馬頭とは、たまたま呉羽が依頼先から蓮台野へ帰る途中で出くわした。
日が落ちつつある薄闇の中で、下等な物の怪何匹かにちょっかいを出されている網代車が、呉羽の前方にあったのだ。

付き従っている随身や牛飼童も、ことごとく腰を抜かし、網代車の後ろの簾は、下半分が物の怪に引きちぎられ、中に貴族っぽいナリの男が震えているのが見えた。

はっきり言って、呉羽にとってはどうでもよかったが、その日は依頼先での仕事が、恋敵を殺して欲しいという、しょうもない外法で、断ったところ散々悪態をつかれ、切れた呉羽は依頼主と大喧嘩したため、いらいらしていた。
しかも網代車は、道を塞いだ状態で止まっていたのだ。

物の怪が群がる網代車に躊躇無く近づく呉羽に、車中の男が縋るような目を向けた。

男の視線を追った物の怪の一匹が、呉羽に気づき、飛びかかってきた。
その物の怪を、表情を一切変えることなく、呉羽は一刀のもとに斬り捨てたのだ。

ちょっと知恵のある物の怪なら、呉羽とそはや丸がただ者ではないとわかるだろうが、残念ながら、網代車に群がっていた物の怪どもは、揃いも揃って阿呆だったようだ。
仲間が斬り捨てられるや、一斉に呉羽に向かって飛びかかってきた。

いらいらしていた呉羽は、物も言わずに刀を振るい、物の怪を一匹残らず斬り捨てた。
一瞬で物の怪を退治した呉羽は、そはや丸を鞘に納めると、いまだ車中で震えている男を見もせずに、車の前の轅(ながえ:牛車の前に出ている長い棒)を飛び越えて、さっさと蓮台野へと帰って行ったのだ。

そのとき車の中で震えていた男が左馬頭で、後日どう呉羽の住まいを突き止めたのか、蓮台野の呉羽の元に使者がやってきて、左馬頭の屋敷に招かれたのだ。
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