妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~
「何故左馬頭が、お主を恨む? 隆季殿は、わしにお主のことを話すときも、夢を見るようにうっとりとしておったぞ。天女のように美しい、鬼女だとな」

呉羽は唇を引き結んで、さらに粟肌立った腕をさすった。

左馬頭---藤原隆季は、初めこそ呉羽に命の恩人だと言って、色々世話を焼きたがっただけだったが、そのうち呉羽に手を出すようになってきたのだ。

相手は一応貴族なので、殴り倒すわけにもいかない。

のらりくらりとかわしてきたが、ついにこの間、我慢ならなくなった左馬頭に押し倒された。
それで思わず、呉羽は傍にあった脇息で、殴ってしまったのだ。

そのまま呉羽は、屋敷から逃げ出した。

当たったのは、脇息の足ではなかったので、大層な怪我をすることはなかったろうが、怒りは相当なものだろうと覚悟していた。

簡単な依頼で莫大な礼金を払ってくれる左馬頭という上客を失うのは痛いが、呉羽は遊び女(あそびめ)ではない。
身を売ってまで、上客を繋ぎ止めようなどとは、露ほども思わないのだ。
< 21 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop