妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~
「そちは面白いのぅ。じゃが、心配には及ばぬ。お主がかの屋敷に行くのは、左大臣であるこのわしの使いなのだし、わしの娘であり、近く帝の元に入内(じゅだい)する、多子姫のためでもあるのだから」

それで何で大丈夫なのだと思いながら、呉羽は頼長の言葉の続きを待った。

「そもそも融殿の亡霊だと言われておるものが出たのは、いずれも宇多上皇のときじゃろ。その後は鬼になっておる。ま、その真相を確かめるというつもりで、一つ頑張っておくれ」

「真偽を確かめるだけが、左大臣様の目的なのでは?」

これまた頼長は、否定も肯定もせず、口元を扇で隠して目を細めただけだった。

「多子姫様と、此度の鬼退治とは、どう関係あるのです」

呉羽は先程会った、生意気な姫を思い出しながら聞いた。

「姫は好奇心が強い。かの屋敷に行ってみたいと聞かぬのじゃ」

つまり、貴族の道楽の一環というわけか。
呉羽の眉間の皺が、深くなる。

「ほほ。報酬は弾むぞえ。要は、多子姫の護衛じゃ。強い女子(おなご)というものが、なかなかおらずに困っておったが、そなたなら、わしの条件を兼ね揃えておるとみたが。どうじゃ?」

ようやく合点がいった。

陰陽寮には女はいない。
神社の巫女や辻占師は、大抵が女だが、そういった者は依巫や口寄せが主で、物の怪退治をするような者はいない。

刀を振り回して物の怪をぶった斬っている者など、男の術師を合わせても、数はいないものだ。

姫の護衛に妙な男をつけるわけにはいかないし、かといって弱い女では護衛にならない。
男のように強く、物の怪退治の得意な女など、呉羽ぐらいしかいないだろう。

しかしそれも、左馬頭さえいらぬことを頼長に吹き込まなければ、呉羽の存在など、頼長には知りようもなかったことなのに。

呉羽は下を向いて、ひっそりと舌打ちした。
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