妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~
呉羽は北野天神の前で足を止めた。

「おお、巫女殿。ご無事であられましたか」

呉羽の姿を認め、随身(ずいしん)らしき男が駆け寄ってくる。
男の背後を見れば、少し向こうに牛車があり、幾人かの雑色(ぞうしき)や牛飼童(うしかいわらわ)の姿が見て取れた。

『迎えにも来ねぇで、何がご無事だ』

そはや丸が、再び不満げに言う。

「蓮台野近くまで、迎えを寄越してくださるとお聞きしておりましたが。何ぞありましたのか」

言いながら呉羽は、牛車に近づいた。
牛車のすぐ近くにいる牛飼童の顔は真っ青で、従者(ずさ)が寄って集って宥めているようだ。
だが従者の誰一人、牛飼童に触れようとはせず、少し離れたところから、気味悪そうに声をかけているだけだ。

「もし。その童に、何ぞありましたのか?」

不意に現れた呉羽に驚いたように、従者らが一斉に振り返った。
牛飼童も、のろのろと顔を上げる。

「じ、実は。巫女殿をお迎えに、ここまで来た途端、この童が奇妙な事を言い出しまして」

初めに呉羽に声をかけた従者が、口を開いた。

呉羽は牛飼童の顔を覗き込んだ。
さして悪くもない女子(おなご)の顔を間近に突きつけられ、青かった童の顔は、ほのかに赤くなった。

『こいつ、生意気に色気づいてやんぜ』

そはや丸の軽口を聞き流し、呉羽はその濃紺の瞳で、童をしばらく見つめた後、ついと従者らを振り返った。
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