愛より青し
龍平は3つ上の会社の先輩で、アマネの仲の良い同期の子の指導担当だった。

ときどき、アマネと龍平と同期の子で飲んで帰り、帰宅方向が同じだったからというお定まりのパターンでお付き合いが始まったのが15年前…。

15年、そう、気づいたらもう15年もたっていた。なんて意外に早いものなんだろう。

龍平が他の人と結婚をしていた5年間を除いても、10年も一緒にいたのかと、今更ながらに思う。

あたしの27歳の誕生日、「大事な話がある」って期待させておきながら、龍平の口から出た言葉は「子供ができた」だった。

「は?」

それは男のセリフではないでしょう、と突っ込もうとした瞬間に理解した。

なるほど。そういうこと…。

「アマネごめん」の一言だけで、納得なんてさせてもくれないまま龍平は結婚をして、そして5年後に戻ってきた。

まるで、あたしは待っているに違いないって感じの涼しい顔で。

待っていたつもりはないけど、結構傷ついていたから、よくある「臆病」って言葉に逃げ込んで、気づいたらあたしも30を超えていた。

子供の養育費でお金が飛んでいく龍平くんがよく言ってた。

「俺はきっと地獄に堕ちるな。子供には本当に申し訳ないと思っているんだ」

子供のことになるとけっこうまともな言葉を話しだすくせに、続きはこうなる…。

「だけど、蜘蛛の糸が降りてくるに違いないって思わない? 俺はアマネを踏みつぶしたりしなかったもんね」

あたしは蜘蛛なのか……?

そんな風にして、出戻りの35男と臆病な32女は「結婚」ておおげさな舞台に登ることを回避し続けて、また無意味な5年間を費やしてしまった。

5年…。あいつにはどうやら5年という数字が魔の年月みたい。

最近ようやく『結婚』という大舞台からワイワイうるさい観客が減り、「いい人いないの?」とか「お母さんに早く孫を見せてあげなさい」とかいう声援も聞かなくなって、母の男友達レベルチェックも大甘になったというのに。

ようやく龍平くんでさえも、旦那様候補として母の口から名前が出るようになったというのに。

ようやく「結婚なんて10年20年30年先まで、ほぼ毎日お互いの安否確認をし合う関係にすぎないよね。軽く考えてみよっか」って龍平が言い出していたのに。


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