そこを行く人【短編】
忘れているくらいの呼吸。

水中を行くような歩調。


それでも足元ではガラスや砂利がこすれあって、短い悲鳴のような音を断片的に主張する。

それらを宥めるようなゆっくりとした足の運びは、高校の頃から変わっていない。












そうして、廊下の突き当たりまで、来る。



剥がれたペンキが床に散らばる、もう扉のない入り口。
視線を上げれば、かすれた字でそこが空き教室であることがわかった。


中は、満ちた霧が光を含んで漂っていた。
ぼんやりと見える窓枠と外の緑。

少し、眩しむように目を細めた。
< 3 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop