僕はいつでもキミの傍に
42 鈴村 誠
「君が真実を暴いたところで……誰も幸せにはなれない」
そう言って目の前の『彼』が笑った。
夕暮れの赤い光に照らされる……マンションの屋上。
強い風が空気を切り裂き、まるで泣いている様な甲高い悲鳴を上げていた。
その中を彼はゆっくりと歩き、俺に近付いてくる。
「それでも君は……真実を暴こうと言うのかい?」
彼のその言葉に、グッと息を呑んだ。
……そう、誰も望まない。
ここで俺が全てを暴いても……誰一人幸せになる事はない。
グッと拳を握りしめたまま、ただ真っ直ぐに彼を見つめる。
彼が微かに笑みを携えたまま俺の前まで迫り……それから俺の横を通り抜けた。
そのまま彼は軽やかにフェンスを乗り越えると、わずか数十センチ程のコンクリートの縁に立った。
あと一歩踏み出せば、彼の体は奈落の底へと落ちていく。
彼はフェンス越しの俺に背を向けたまま、焼ける様に赤い空をそっと見上げた。