君に逢えない理由
入学式が終わり、昼過ぎに学校を出た。
明日からいよいよ本格的に、高校生活がスタートする。
学校から駅に向かう途中、近くの公園に立ち寄った。
ここは、事務所のレッスン場の近くで、よくレッスンの後、ダンスの復習をやっていた。
人があまり来ないから、思いっきり踊ることが出来る場所だった。
公園の入り口から中を覗くと、手前のベンチに一人、高校生が寝ているだけだった。
こんな時間に公園で寝てるなんて、新学期早々サボりだろうか。
静かにその前を通り過ぎると、一番奥のベンチに腰掛けた。
鞄から携帯を取り出し、画面を開く。
from:シュン
俺は君を知らない。
君も俺を知らないと思う。
でも、俺のメールは
君のもとに届いた。
だから、この出会いを
俺は大事にしたいんだ。
君が嫌じゃなかったら
俺とメールしてくれない?
君に聞きたいことが
あるんだ。
シュンと名乗る少年からの返信は、とても奇妙なものだった。
やはり、適当に打ったアドレスに、自分のアドレスが一致したのだろうか。
そして、最後の一文もすごく引っかかる。
「私に、聞きたいこと・・・」
嫌だったら終わりでいいと、彼は言っている。
正直、まだ怖い。でも、なんとなく、彼は私を必要としてくれているような気がした。
事務所をやめて、先を見失いかけている私を、必要としてくれている人がいる。
そうだとしたら、私はまだ前を向く価値がある気がする。
視線を上げると、公園の木の向こうに、事務所のビルが見えた。
結論の出ないまま、私は帰宅するために、寝ている高校生を起こさないように、そっと公園を後にした。