君に逢えない理由

公園から少し離れた場所にある喫茶店。
鈴下社長に呼び出された場所がそこだった。
初めて入る店内は、ログハウスのような造りで、落ち着いた雰囲気が漂っていた。

窓際の席に座っている僕の前には、30代後半くらいのこれまた落ち着いた雰囲気の男性が座っている。
予想外に若くて驚いたのだが、彼が鈴下社長本人だった。

「さて、急に呼び出して悪かったね。」
「いえ、大丈夫です。暇だったんで。」

電話をもらってから30分ほどしかたっていない。

「あの、これって、面接みたいなものなんですか?」

僕の問いに、社長は少し言葉を選んで話し出した。

「面接っていうほど、たいしたものじゃないんだよ。ただ、君に聞きたいことがあってね。君と直接話をしてみたかったんだ。」
「聞きたいことですか?」
「あぁ、君さ。芸能界に入る気あるの?」

社長の問いかけに、僕は少し考えて、自分の想いを正直に話した。

「先のことは、考えてませんでした。ただ、芸能事務所に履歴書を送るっていう、今までの自分からしたら考えられなかった行動を起こせたことが、僕の中で大事だったんです。」
「だからこの志望理由なのか。」

社長が笑いながら、一枚の紙を僕の前に差し出した。
それは紛れもなく、僕が送った履歴書だった。

「普通なら、誰に憧れて、とか、歌が好きで、芝居が好きでとか書いてくるもんだ。しかも、熱意のある文章を枠いっぱいに埋めるもんなんだぞ。」
「まぁ、そうですよね。」
「それに対して、君はたった一言だ。」

そういって社長は、目の前に広げた履歴書の志望理由が書かれている部分を指差した。
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