君に逢えない理由
入学式の朝、眠い目をこすりながら、私は電車に揺られていた。
自宅から学校まで、電車を乗り継いで1時間。
家から近い学校を選ばなかった事を後悔するのは、どうやら間違いなさそうだ。
ただ、こんなにも眠いのには理由がある。
昨日の夜寝る前に届いた、送り主のわからないメールが、どうしても気になってしまって、中々眠れなかったのだ。
――どうしてメール、したいんだろ。
ベッドの中で何度も考えたが、結局答えは見つからなかった。
新しい生活が今日から待っているというのに、何でこんなにも気持ちが晴れないのだろう。
何だか、考えるのも面倒になってしまった。
――考えてわかんないなら、聞いちゃえばいっか。
半分開き直って、昨日の受信メールから返信画面を開いた。
返信するのが怖いという気持ちはまだあったが、このまま返さなければずっと心に引っかかったまま過ごすことになる。
それになんとなく、悪い人じゃない、そんな確信が自分にはあった。
だからこそ、気になるならばと踏み切ることが出来たのだ。
少し悩んで、文章を打ち込んでいく。
あなたは
誰ですか?
ごくありふれた、たった一文。
でも、すごく大切な一文だ。
――どうか、変な事件じゃありませんように。
最後の最後まで、自分の身の安全を祈った。
電車は降りる駅のホームに到着し、ゆっくりとドアが開いた。
私は思い切って送信ボタンを押すと、席を立ってホームへと足を踏み出した。