君に逢えない理由

3、繋がった糸


入学式へ向かう足取りは、新入生とは思えないほどに重かった。
結果として、集合時間の10分前である今も、まだ学校には到着していない。


今朝、家を出る前、母さんは何か言いたそうに僕を見ていた。

「大丈夫だよ。何でもないからさ。」

そう一言母さんに声を掛けて、返事も聞かずに家を出てきた。
きっと母さんは分かってる。
僕がこれから始まろうとしている生活を、どれほど苦痛に感じているか。
だから、最後まで行かなくていいよと、声を掛けたかったんだろう。


でも、それが通用する世の中じゃないと、僕も母さんも分かってる。
根が真面目なのは母さん譲りだから、結局二人とも、何も出来ずに今日を迎えてしまった。


ただ、僕の中では、何かが変わり始めている。
鞄に入っている封筒と、昨日の夜、母さんの仕事場で染めてもらった少し茶色い髪が、重い足を何とか前に突き動かした。





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