ワンダー、フルカラー
(これは美味しい光景美味しい光景美味しい光景…!)

臼田くんの今の顔は、普段からでは想像が出来ないくらいに怖い。そして、いつの間にかその顔は近くにあって、ちょっと困ってしまう。
どんなに怒っていようが目だけはさっきと同じ子犬なままだ。これは美味しい光景というか、展開だと思うことである程度は恐怖心を和らげることが出来る。でもそれをしてしまったら失礼に当たってしまうだろう。
しかし、変に意識をしてしまって彼の顔をさっきからずっとは見ることが出来ない。思わず目を反らしてしまう。

「根津さん、僕の顔を見てください。」

見て欲しいと言われても、緊張のあまりに顔を直視することが出来ないんですよ、臼田くん。

「み、見られない…」
「何で…」
「うう…」

涙が出そうだ。まるで羞恥プレイをやらされているみたい。されたこととかないですが。

「だって…」

心臓に悪いんだもん、今のこの光景。
そこまでは言わず、『だって』で言葉を止めて、私はチラッと臼田くんの顔を見上げみた。
臼田くんは静かに私のことを見ていた。しかし、目が遇った途端に素早く私の顔を両手で掴んでは固定をさせ、目を反らさせないように見合えるように真っ直ぐと視線を向き合わせてくる。してやられてしまったみたい。
それにしてもやっぱり近いよ…手が顔に当たっているせいか、初めて顔に触れられたことのせいか、私の心臓は口から音が聞こえてきそうなくらい元気に動き回っていた。寿命が絶対縮んだよね、これ。

「…いきなりすみませんでした。」

私のいろんな反応から何かを察知してくれたらしい臼田くんは、私から離れるとやっと玄関に腰を下ろしてくれて、今度は自分自身の顔に、表情を隠すかのように手を当てる。

「取り乱してすみません…実は話したいことがあったのですが。」

臼田くんは溜め息を吐いて、顔に当てている手を剥がして。私のことを見上げながら、再び溜め息を吐いて。彼の幸せは多分数ヶ月分吐き出されてしまったと思われる。
いや、溜め息ではなくて深呼吸なのかも?疲れていそうだし…

「話したいことって?」

警戒しなくてももう大丈夫だと思って、私も臼田くんの隣に腰を下ろす。
ちょっとだけ怖いけれど…ここは我慢だ。やっと彼は本題に入ってくれたのだろうと思うし。ちゃんと聞いてあげないと。

「実はかくかくしかじかで…」

しかしちゃんと聞こうとしている私とは裏腹に、臼田くんは詳しいことは言わず、重要な部分だけを

「暫くの間、根津さんの家にお世話になることになりまして。」
「へぇ…………は?」

率直に述べて。
私は一瞬呼吸を忘れてしまって、石造のように固まりながら、臼田くんのことを見詰め続けたのだった。
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