ワンダー、フルカラー
「僕は何事にも無関心でいたかったのですよ。」

臼田くんはキッチンに寄り掛かり、私の手から自分の手をスルッと抜くと、床に座ると玄関にいた時のように顔を手で覆って表情を隠した。

「目に付いたものに興味を持たせることは感心していることですが、風景には感心を持ちたくなかった。僕の周りにある問題には感心を抱きたくなかった。」

確かに…言われてみればっていう気はする。
臼田くんは風景を見ているようで、だけど口を開かせると全くそれとは関係のないことを言う。今日も電車の中で風景を見つつ白米の話を必死になってしていたし…意味不明なことをたまに言い出すのもそんな理由からだったのか。

「おじいさんやおばあさんに迷惑を掛けないように気配りをしたり、家の手伝いをしつつ勉強に勤しんだり…今思えば現実逃避がしたかったのでしょう、僕は。周りとはどこか違う環境にいることに。」

ふぅ、っと溜め息を吐いた臼田くんは、顔から手を離すと口元だけを緩めて笑った。

「今は重荷が取れたのと同時に、今までの苦労とか一体なんだったのか混乱しているみたいです。」
「臼田くん…」
「もの凄く不安です…」

重荷…か。確かにおじいさんとおばあさんが一緒になって入院をしてしまった今、彼は自由の身になれた訳で。私の家でこれからお世話になるけど、おじいさんとおばあさんとはまた違う年齢層の家庭だから、気の遣い方っていうものは変わってくるし…そもそもうちの父さんは彼のことを家にいる間は本当の息子のように可愛がるだろう。
臼田くんの両親は海外で暮らしているらしい。物心が付いてすぐにおじいさんとおばあさんの家に預けられたのだと父さんから聞かされた。
しかしそれからは行方知れずで、今どこで何をしているのかですら分からないらしく、臼田くんには現在頼れる身内はあの母方の老夫婦しかいない。彼らより若い団体に入ると着いていけなくて、具合が悪くなるとか学校行事でのお泊り会で言っていたから、とにかく彼の体調の方が心配だ。
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