ワンダー、フルカラー
本気で目玉の心配をしながら、別の意味でドキドキを体感して5分後。彼の手が顔から突然離れた。

「落ち着きました…ありがとうございます。」

臼田くんは私にそう言うと、何事もなかったかのような表情をしながら立ち上がり、カレーの鍋の火を消す。

「うん…」

夢のような時間ではあった。臼田くんの黒い部分が言葉から見え隠れしていたけれど、臼田くんとまさか…見つめ合うような形で綺麗な顔を間近で見られたのだから。
必要とされたことが1番嬉しかった。頼ってくれたことがとにかく嬉しかった。
始めてだった。臼田くんが私に甘えてくれたのは。

「あ、大変です根津さん!」
「え?」

余韻のようなものに浸っていたら、頭上から臼田くんの焦ったような声が聞こえてきて、ボーッとしていた私は突然我に返って臼田くんを見上げる。
そんな臼田くんは、鍋の蓋を持ったまま目を点にさせて驚いて、とんでもないことを口にした。

「カレー焦げてます!!」
「何だって!?」

いや、別にそこまでは驚いていない。臼田くんが驚いているから便乗して驚いてみただけ。
しかし大変だ。今日の夕飯カレー無しのご飯盛り?おかず無しだよ。

「すみません…根津さんが鍋を見ようとした時に僕が止めてしまったから…」

臼田くんはしょんぼりと眉を潜めると、睫毛を伏せて申し訳なさそうに謝ってくる。
そう言えばそうだった。カレーの火を消そうとした時に突然臼田くんに引っぱられたんだ。

「仕方ないさ…カレーじゃなくて他のものでも食べよ?」

幸いご飯を炊いている。だから適当な具材を使っておかずを作れば問題ない。

「で、ですがカレー…食べたかったのでは…?」
「ううん。昨日とか朝とか食べてるから別に?」
「そう、ですか…」

臼田くんに話し掛けながら冷蔵庫の中身を見てみたけれど、ついていないことにその中には何も入っておらず…入っていたとしても父さんの酒のお摘まみ関係で、ご飯のおかずになるようなものなんて存在しない。あるとしたら冷凍食品ぐらいで…今日はもう疲れ気味で外に出たくないから、明日絶対に買い物に行こうと心に誓った。
もちろん臼田くんも道連れだ。
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