ワンダー、フルカラー
メールの送信ボタンを押すのにどれだけの時間を掛けているのだろうか、私は。
かれこれ朝に打ったメールを放課後の現在まで送れずに、休み時間が来る度にこうやってにらめっこをし続けている。いい加減疲れてきました。

(大丈夫…ただお薦めの少年漫画を聞くだけだから…)

全く問題ないというのにどうしてこんなに私は悩んでいるのでしょう…それもこれもこの前栗井くんが私にしてくれたことが全ての原因なのですよ。あれが爽ちゃんだったら今日とか家に帰りたくないって駄々を捏ねているところだぞ!

(クラスの男子に聞くのもなぁ…)

そういう手もあるとは思うけれど、爽ちゃんと一緒に暮らしているということを勘づかれてしまう気がして…聞きづらいのだ。
だからお手頃に聞ける人というのは彼しか、栗井くんしかいない。爽ちゃんと一緒に暮らしていることを知っている彼にしか聞けないし、頼れない。

「ネズコ何悩んでんのよ。」
「あ、小倉さん。」

ケータイとのにらめっこ再戦が数分続く中、今までどこかに行っていたらしい小倉さんが教室に帰って来て、微妙そうな顔をさせながら私のことを見ていらっしゃる。
どうやら異様な光景らしかった。

「ちょっと勇気が足らなくて…メールの送信ボタンが全く押せないの。」

送信をしたくてボタンに触れていても、すぐに引っ込めては項垂れて…さっきからそれを何回も繰り返している。

「ああ成る程…朝からその調子だからもう超気になってたんだ。」
「ご、ごめん…」

まさか小倉さんの気を惹き付けていただなんて全く気が付かなかった…勉強の妨げになっていたりしたらどうしよう?

「その雰囲気から言ってあれだね。メールの相手って男でしょ?」
「なっ!?」

しかも鋭いぞ小倉さん!私が誰に送ろうとしているのか分かってしまうくらい気にしていただなんて!!
そんな探偵のように鋭い小倉さんは、ニヤニヤと笑いながら私に手を差し出してくる。
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