ワンダー、フルカラー
「ほら貸して?私が送信ボタンを押してあげるから。」

明らかに文の内容を読もうとしているような顔をする小倉さんに、私は一瞬狼狽えた。渡したらそこで終わりのような気がして…だから鞄の中へとケータイを押し込み、大事に抱えて素早く彼女の横を素通りする。

「そんなにヤバい内容なのかぁー?へぇー?」
「ううう煩い!!じゃあね!!」

そして、廊下に出ると窓の外を覗いている最中だった爽ちゃんに声を掛けて、私は小倉さんから逃げる為に早歩きで下駄箱を抜けて校舎までもを抜けていく。
着いて来られなくて良かった…逃げ切れて!

「ま、真夜…一体何があったんですか?」

黙って私に着いて来てくれた爽ちゃんは、若干息切れをしながら私に質問をした。

「別に何でもないよ?」
「本当ですか?」
「本当です。」

爽ちゃんに何があったのかを話したらきっと彼女と同じことをしてくると思う…だから何が何でも言わないようにしなくては。
ただ単に彼の黒い部分が覚醒するんじゃないかっていう恐怖心が全てを優先させているのですが!

「あ、そうそう。今日の夕飯カレーが食べたいです。」
「え?この前もカレーだったのに?」
「あれは結局僕のせいで食べられませんでしたから…」
「そういえばそうだったね…」

さっきの修羅場?からは想像が出来ないくらいのごく平凡な会話をしながら、私たちは駅のある方面を歩いてゆく。
今日の夕飯をカレーにするとなると…明日もカレーになるのか。男が2人いるから結構多目に作っておかないと間に合わないかもしれない。

「スーパーに着いたらとにかくタイムセールには参加してもらうからね?」
「分かりました。」
「足を踏まれないように注意してね。おばちゃん達容赦ないから。」
「え、」

行きながら脅しつつ、爽ちゃんをスーパーの安売りに参加させて、その間に私はカレーの材料を揃えた。
家に帰る頃、彼が疲れ切ってフラフラと歩いていたのは言うまでもない。
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