ワンダー、フルカラー
******

真夜は一体どうしてあんな反応を示したのだろうか。
今日の彼女は珍しく何かがおかしい…何て言うのか分からないけれど、例えるのなら挙動不審という言葉がピッタリだろう。

「ただ今帰りました…」

真夜が置いていった荷物も一緒に抱えながら、僕はリビングを抜けて台所にある冷蔵庫へそれらをしまいに向かう。

「おう、お帰り爽助くん。」
「やっと帰りやがったか臼田。」

おじさんの声と一緒に余計な声まで聞こえた気がしたけれど、これはきっと幻聴だ。疲れているせいだ。
だから無視をして作業に入った。

「おじさん、今日の夕飯真夜の手作りカレーですよ。」
「そうかそうか。っていうかその真夜子は一体?」
「真夜は洗濯物を畳みに行きました。」
「それ以前の問題で俺のことシカトすんなよ。」

おじさんと話していれば、幻聴のはずの声は何故か勝手に怒りだして。僕へと近付いてきて…

「…はぁ、」

入れまいとしていたというのに、ついには視界へと入り込んでくれた。
自然と眉が寄っていく僕。

「あからさまに嫌そうにすんなよな。」

出来れば幻にしたい人物は、僕に話し掛けながら溜め息を吐く。

「あなたこそ……あからさまに嫌そうにしないでくださいよ。」

いくら僕だってそんな冷たい声を掛けられれば傷は付く。
彼は僕のことが嫌いらしい。僕も彼のことは嫌いだけれど…昨日のあれから良く考えてみた。それは多分、全て警戒心から来ている好き嫌いだ。危なくないと判断が出来れば、普通な態度を彼に振る舞うことが出来るような気がする。
しかし僕は明確な理由もなく彼のことを『危険』と判断している。何を基準にそのような判断を取ったのかと言えば真夜を見るその目がダメで…

「まぁ別に良いけどさ…」
(良いんだ?)

彼は僕から目を反らすと、再びリビングの方へと歩いてゆき、自分の鞄を漁りだす。
そして何かを取り出すと…再び僕の元へと戻って来て、

「お前にさ、これ渡したくて。」
「え?」

僕にラッピングされた四角い箱のような物を渡してきた。
< 73 / 89 >

この作品をシェア

pagetop