ワンダー、フルカラー
「…じゃ、俺帰るから。」

何故か人のあんな絶望的な顔を見て嬉しいと思う俺は最低な奴なのだろうか?
『勝った』って思うことは…最悪なことなのだろうか?
けれど、臼田の天然振りににはイライラするから、臼田の為に頑張っている真夜子が可哀想に思えて仕方がないから…これは真夜子の為であって臼田の為ではない。変な罪悪感に捕らわれることなんてない。
俺は縁側にある自分の靴を履くと、丁度後ろを向いていた真夜子に挨拶もせずに、そのまま静かにこの家から去る。
顔を合わせるのが辛いと思ったことが変に辛かった。

(今日は気分が良かったんだけどな…)

だから根津に無理を言って臼田にハヤブサのお礼のお菓子を持ってきたというのに…どこか後味が悪い。
好きな人にアピールしても、その好きな人は毎日一緒にいるような奴にしか振り向かないし…上手くいかないことにイライラしているのか、俺。
けれど…

「これから面白くなりそうだしな…」

上手くいかなくても楽しめたらナンボではないだろうか?
恋っていうものは好敵手…ライバルが存在するからこそ面白い。漫画でもライバルがいてこその恋だしな。

「ぜってぇ負けねえ!」

誰もいない魔の交差点に、俺のが響き渡る。
何故か無性に叫びたくなったのは、きっと気合いを入れる為だろう。





******

クリームくんが視界から消えたのはいつ頃だっただろうか?覚えていないくらい、僕はその場で固まっていた。

(好き…?)

クリームくんは言っていた…真夜のことが好きなのだと。
そして、それは頬にキスをする程のものらしい。そんなことを真夜にしたらしい。

(奴め…)

僕の中で何かがメラメラと燃えているような感覚がある。例えるのなら腸が煮えくり返っているような…そんな感じだ。

「あれ、栗井くん帰っちゃった?」

洗濯物を全て中へと移動させた真夜が、辺りをキョロキョロと見回しながら僕に尋ねてくる。

「はい…少し前に帰りました。」
「そっかぁ…」

何故か少し寂しそうな顔をさせながら、真夜はポツリと僕に返事を返した。
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