ワンダー、フルカラー
私にとって志望校とかどうでも良くて、大学とか行けるのならどこも同じな気がして…とにかくどうでも良くて。だから今まで関心とか抱いたこととかなかった。

「ネズコは進学余裕って言われたんでしょ?」

校内にある自販機にて小倉さんと遭遇して、まず最初に出てきたものは感嘆の溜め息。そして次に出てきたものは諦め気味な言葉と重たくて低い声音。

「小倉さんは?」
「まぁ出来なくはないって言われたけど…レベルを下げろだってさ。」
「そっかぁ…」

この学校では現在進路関係の2者面談が開かれており、どこもかしこも暗い顔の方々でいっぱいだ。
小倉さんもその中の1人らしい。私はというと至って普通だけれども。

「めんどくさいよね進路とかさぁ…将来なりたいものを大人達に『無理』とか言われたりしてさ、指図すんなって思う。」
「そうだね…」

父さんも昔にそんなことを言っていたことがある。
『やりたいと思ったことをさせてやることが教師の務めだ』と思うらしい。『だから学力的に無理とか決めつけて言ってはならない』…って、酔っ払いながら言っていた。ちょっとそこが残念でならないです。

「ところでネズコ。」
「ん?」

自販機のジュースでも飲もうかと思って、ポケットから財布を取り出した時。小倉さんが私の肩を叩きながら反対の手で指を差す。
その指の先を見てみれば、

「アンタの彼氏、蝶々と格闘してるけど?」
「彼氏じゃないし!」

紋白蝶を追い掛ける爽ちゃんがいらっしゃって。
…声を掛けるべきなのかに一瞬迷ったけれど、小倉さんが爽ちゃんへと歩み寄って行った為、強制に声を掛けなければならないことになってしまった。
別に小倉さんが声を掛けることに問題はない。小倉さん側には問題はない。
しかし爽ちゃん側は…

「臼田くん何してるの?」
「あ、根津さん!」

集中している場合だと、私と父さん以外には声を掛けても反応をしない体質なのだ。問題が生じてしまう。
身内のおじいさんとおばあさんですら困ってしまう癖らしく、集中していて声に反応をしてくれない時は私か父さんがよく駆り出されていた。
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