ワンダー、フルカラー
「特に何もしていませんが…強いて言うならば進路について悩んでいたところです。」

爽ちゃんはそう言うと、近くにあるベンチへと腰を下ろす。
後日の話で判明したことなのだけれど、爽ちゃんは紋白蝶を追い掛けていたという訳ではなく、その紋白蝶はたまたま進みたい方向へと飛んでいただけらしい。こんな偶然ってあるのだろうか。

「なりたいものとか特にはないので、進学しろと言われてもどこに入ろうとか分からなくて…」

そう言った爽ちゃんの顔は少し影を帯びていた。

「就職を考えてもみたのですが高卒で内定が貰えるか分かりませんしね…」
「そっか…」

この学校は就職をする人もちらほらといるけれど、今の不景気のせいで教師は私達生徒に進学の方を勧めてくる。
爽ちゃんは前から就職を希望していたけれども、教師とおじいさん、おばあさんに勧められて少し前に進学をすることを選んでいた。
また就職を考え出したのは…多分おじいさんとおばあさんに迷惑を掛けたくなかったからだと思う。

「ああああもう辛気臭い顔するんじゃないわよ!」

いつの間にか暗くなっていたらしい。一緒にいる小倉さんが私と爽ちゃんの肩に手を乗せて、力強くポンポンと叩いてきた。

「まだ時間はあるって…そんなことよりも今は、もう直始まる中間テストに気合いを入れないと!私の未来はテストの成績に掛かってるんだから!!」

拳を作って気合いを入れる小倉さん。
その瞳には炎が宿されているような…そんな気にさせられました。

「テストもそうですけど、もう直体育祭もありますよね。」

爽ちゃんは笑顔でイベント事を付け足して、部活をやっている方々の方へと目を向ける。

「運動部は大会もありますし…」
「本当本当…気合いを入れないとやってられないですよ。」

どこか遠い目をさせながら、小倉さんは爽ちゃんの言葉に同意をした。
その理由は、

「先輩早く部活に来てくださいよ!」
「行くからちょっと待っててよ!」

彼女は運動部に所属しているからだ。

「ってな訳でネズコ。明日ノート写させてね。バイバーイ!」
「はいはい…」

そんなこんなで小倉さんは、私達に手を振りながらそのまま後輩の後を追い掛けてゆく。
小倉さん…今日も授業中に昼寝をしていたのか。
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