ただ君が好きだから
 
 
「では、お嬢様の髪質を最大限に生かせるヘアスタイルに致しましょう」
 
 
「最大限に?」
 
 
「えぇ。お嬢様は天然のプラチナブロンドで、更にウェーブがかかっていらっしゃいますから、下手に凝ったアレンジをするよりかは、シンプルに結った方がお嬢様の髪質を生かせるのですよ」
 
 
「そうなんだ? なんか……律花の方が詳しいよね、あたし自身のことなのに……」
 
 
「それは、勿論。お嬢様の専属執事ですから」
 
 
笑顔でそう云うと、お嬢様は少しだけシュンとした。
 
 
「如何致しましたか、お嬢様?」
 
 
「……別に、何でもない。ただ、自分自身のことなのに……何も知らない自分が少し嫌になっただけ……」
 
 
そう寂しそうに云うお嬢様の頭を撫でながら、安心させるように笑って……
 
 
「そんなに落ち込まなくてよろしいですよ。知らないことは、これから知っていけばいいだけのことです。それに、自分自身のことをすべて知っている人なんて、この世にはいませんよ」
 
 
「……そう、なの?」
 
 
「そうですよ。自分自身のことをすべて知り尽くしていたら、人間関係に困らないでしょう?」
 
 
「そ、か。そうだよね!」
 
 
本気で答えたとはいえ、こうも簡単に信じてくれるとは思わなかった……。
 
昔っから、自分が信用している人に対しては疑うことを知らないんだよなぁ……。
 
 
.
< 10 / 27 >

この作品をシェア

pagetop