ただ君が好きだから
 
 
「では、また後程」
 
 
そう云って立ち去ろうとした時、真尋お嬢様の手が俺の制服を掴んだ。
両手でギュッと力強く、でもどこか弱々しくて……。
 
 
「如何致しましたか? お嬢様」
 
 
「あ、えと……帰りも……律花……いないの……?」
 
 
伏し目がちにそう訊ねてくる真尋お嬢様に、少し胸が高鳴る。
いつもは強気でいるクセに、ふとした時に弱気になる。
そのギャップに、俺達5人は何度やられたことか……。
 
 
「帰りは、お嬢様のクラスまでお迎えにあがります。ですから、待っていてくださいませ」
 
 
「ほ、ほんと!?」
 
 
「えぇ。俺はお嬢様には嘘は吐きません」
 
 
「嬉しい! じゃあ、帰りは律花もいるのね? あたし、ちゃんと教室で待ってるわ」
 
 
そう云って、真尋お嬢様は本当に嬉しそうに笑った。
そして、快里と共に入学式が行われる体育館へと歩き始めた。
 
その背中を見送りながら、改めて自分は倖せ者だと思った。
 
 
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