ただ君が好きだから
「もう少ししたら、お嬢様を迎えに行かないとな……」
身体に纏わりつく那智を無視して、俺は独り言を呟く。
俺達新3年生の日程は、既に終了している。
故に教室には、新入生の主人を待っている執事達しかいない。
「つーかさぁ、この学校も今じゃ執事達の方が多いんじゃないですかぁ? 明らかにあぶれてる奴いますし」
「まぁ、それなりに優秀な奴じゃないと、主人の方も仕えてもらいたいとは思わないだろ。つーかお前、立ち直り早すぎだ」
「ドMも打たれ強くなきゃ生きていけないんですよ」
「いや、知らねーし」
「律花が構ってくれないからっ……!!」
「ハンカチ噛んで見つめられても知らん」
教室の床になよっとした座り方をしてハンカチを噛む那智の頭を、一発叩いてやった。
叩かれた那智は、案の定、嬉しそうな瞳を俺に向けていた。
「……でもまぁ、確かに……ここ最近は、執事志望の生徒の方が多い気がするな……」
那智に云われたことを冷静に考えて、改めて周りを見回してみる。
自分の腕時計や携帯電話を見ながら、主人を待つ専属執事達。
主人と執事のクラスが分かれていないため、一見、誰が主人で誰が執事だか分からないが……休み時間や放課後になるとよく分かる。
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