ただ君が好きだから
 
 
「……ちゃんと、起きてるもん……。なんで律花は、そうやって意地悪なことばっかり云うの」
 
 
「それは、お嬢様が可愛らしい反応をなさるからです」
 
 
「け、敬語だって……無理に使っちゃって! あた、あたしが、嫌なの知っててワザとしてるでしょ!」
 
 
「お嬢様だって、無理をして御自分のことを『あたし』だなんておっしゃって……。お嬢様の発言を、そっくりそのままお嬢様にお返し致しますよ」
 
 
ティーセットの片付けをしながら、にっこりと笑ってそう云った。
ら、お嬢様の表情はますます不機嫌なものになっていって。
 
『あぁ、またやっちゃったなー……』
 
だなんて、本当は反省もしていないのに思ってみたりして。
 
 
「うぅー……。り、律花のばぁかっ!! いーーっだ!」
 
 
小さな頃と何一つ変わらない、ケンカ言葉。
7対3の割合で、お嬢様のケンカ言葉は『いーーっだ!』で終わる。
そういうところが可愛いだなんて云ったら、また怒るんだろうなぁ。
 
 
「はいはい。そんなに叫ぶと、喉を痛めますよ? とりあえず、桜弥と桜羅に制服を持って来させますね」
 
 
ティーセットを運んできた小さめのワゴンを押しながら、部屋の出入り口へと向かう。
ドアの取っ手に手を掛けた時、背後からお嬢様の声。
ゆっくりと振り返ると、お嬢様がベッドの上で不満げな表情のまま、何か云いたげに視線を向けていた。
 
 
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