ただ君が好きだから
「何か、御用ですか? お嬢様」
そう訊ねるとお嬢様は大きめの枕を抱え込み、顔の半分を其れで隠した。
そして、少し視線をさまよわせた後、小さな声で……
「……おはよう……」
と、云い忘れていた朝の挨拶を口にした。
そういう意外にも律儀な性格も、好きなところのひとつだったりする。
「はい。おはようございます、お嬢様」
ふわりと笑んで挨拶を返すと、お嬢様は照れたように顔全体を枕に埋めた。
その姿を最後に視界におさめて、部屋を出た。
「桜弥、桜羅。お嬢様に制服をお持ちしろ」
「真尋ちゃん、もう起きたんだ? 珍しいね」
「昨日、結構、夜更かししてたのに……。まさか、律花が何かしたんじゃ……」
「するワケないだろ、ばか」
衣装部屋でお嬢様の制服を調えていた桜弥と桜羅に指示をして、再びワゴンを押しながら歩き出す。
目的地は調理場。
朝食の支度をしている筈のアイツを見張りに行かなければ……。
「快里、朝食の準備は……」
「見てや、律花!! 超可愛えケーキできたで!」
犬のように人懐っこい瞳を向けながら、快里はケーキが乗った皿を突き出してきた。
「……ケーキはいいから、朝食の支度をしてくれないか……」
「あ! 忘れとった」
てへっ、と可愛らしく首を傾げるが……快里がしても可愛く見えない。
寧ろ、イライラする。
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