こころ、ふわり


ようやく笑いがおさまった彼女は、カバンからリンゴのパックジュースを取り出すと私に渡してきた。


「電車で帰るでしょ?駅まで歩きながら話しましょ」


「あ、ありがとう……」


ひとまずジュースは受け取って、チラリと彼女を見やる。


相川澪は自分のぶんのジュースを早速開けて、ストローで美味しそうに飲んでいる。


私ももらったジュースを歩きながら飲むことにした。


もうこれは逃げられない感じだし、ちゃんと話した方がよさそうだ。


「ねぇ、誰にも言ってないでしょうね?」


綺麗な顔立ちからは想像もつかないような強気な口調で、どんどん話しかけてくる。


「誰にも言わないよ」


「ま、口はかたそうだもんね」


彼女の目に私がどう映っているのかは謎だ。


「透もあんたのことは真面目って言ってたし」


とおる?誰?


私が不思議そうにしていたからか、相川澪は「透って、徳山先生の名前。透っていうんだよ」と教えてくれた。


下の名前で呼んでるんだ……。
本当に本当に本当に、徳山先生と付き合っているんだ、この子。


にわかに信じられなかったけれど、こうして話しているうちに現実味を帯びてきた。


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