こころ、ふわり


「吉澤先輩、洗わないんですか?」


と、後輩に声をかけられて我に返った。


「あ……ごめん、ありがとう」


私は慌てて彼女にお礼を言って、水道の蛇口をひねった。


水が流れる。


また、芦屋先生の方へ目を向けてみる。


先生はもう、私の方を見てはいなかった。


━━━━━やっぱり、気のせいだよね。


あまりにも長いこと芦屋先生のことを見つめていたから、目が合っているような錯覚を起こしてしまったのかもしれない。


流れる水を両手ですくい上げ、ふとグランドを見た。


野球部がバッティングの練習をしている。


いつも野球ボールが周りに飛んでいかないようにネットを張っているはずなのに、今日はそれが一部無いことに気がついた。


張り忘れなのかは分からないけれど、打球の方向によってはこちらにも飛んできてしまいそうだ。


そう思った瞬間だった。


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