こころ、ふわり


やっと玄関口までたどり着いて、靴を履き替えようとしていた私の後ろで


「吉澤さん?」


という声が聞こえて、慌てて振り返る。


芦屋先生だった。


先生もちょうど帰るところだったのか、カーキ色のリュックを背負っていた。


「芦屋先生、今日はありがとうございました」


保健室まで連れていってくれた時は、お礼を言うこともできなかった。


私が怪我をした時にすぐに駆けつけてくれたのに。


先生は首を振って微笑んだ。


「気にしないで。それより怪我は?1人で帰るの?」


「あ、はい」


外でタクシーを呼ぼうと思って、と言おうとしたけれど、芦屋先生が歩き方がおかしい私を心配したのか近づいてきた。


「歩ける?大丈夫?」


ほとんど誰もいない学校の中で2人でいるというだけで、私の胸はドキドキした。


< 126 / 633 >

この作品をシェア

pagetop