こころ、ふわり
「誰か違う先生が急に辞めちゃったとか?」
そうじゃないとこの時期に新しい先生が来るはずがない。
だとすれば誰がいなくなったのだろう。
「堀川先生だよ」
彼は答えながらキョロキョロと辺りを見回す。
どうやらまだ校舎の各教室がどこにあるのか完全に把握していないらしかった。
夏休み前のあの時から採用になったのであれば、この学校に来て1週間といったところだろうか。
「保健室、こっちですよ」
私は逆に彼を案内するように先頭を切って保健室へ向かった。
「ありがとう」
お礼を言う彼をチラッと見た私は、
「堀川先生の代わりって事は、美術の先生?」
と聞いた。
「うん、そう」
うなずく彼の雰囲気は、確かに美術の教師っぽいと言われればそうな気がした。
堀川先生は30代の女性の教師だったけれど、絵の具で汚れてもいいようにと服の上になぜか白衣を着ていた。
その白衣はいつも絵の具まみれになり、カラフルになったりしていて生徒にからかわれたりしていた。
堀川先生はもともとうちの高校の卒業生だったらしいから、他のベテランの先生たちと仲が良かった。
でもこの目の前にいる先生は、事務所の場所や保健室の場所も分からないようなので、卒業生ではないようだ。