こころ、ふわり
「生徒は恋愛の対象にはならないって、さっき芦屋先生が言ってました」
私はこの際だから、徳山先生に聞きたいことを聞いてしまおうと思い切って尋ねた。
「徳山先生は?どうして澪は生徒なのに付き合ってるんですか?」
こんなこと聞いてしまって怒られないかな、とあとから少しだけ後悔する。
そんな私の思いをよそに、徳山先生は別に気にする様子もなく淡々と答えてくれた。
「普通に考えれば生徒との恋愛はダメだけど、そういうことも考えられないくらい好きになった人が澪だった。それだけの話」
簡単に言ってのけた徳山先生は、私の顔を見てつぶやいた。
「常識が壊れる瞬間は少し怖い」
「え?」
怖い?
徳山先生でも怖いと感じたこともあったのか。
「まぁ、こっちの話です。とりあえず、昨日のことは私も黙っておくのでそれは安心して」
私にそう言って徳山先生は姿勢を元に戻すと、袴が入っている袋を渡してきた。
「そろそろ出ますか」
うなずいた私は、徳山先生と共に資料室を出た。