こころ、ふわり
「嬉しくないの?」
浮かない顔の私を見て澪が不思議そうな顔をしていた。
私は曖昧に笑ってごまかし、とりあえず高野先生に指示された通りに机を動かして先生たちとグループを作った。
少し離れた席に座った芦屋先生の顔はなるべく見ないようにして、正面に座るクラス担任の星先生を無駄に見つめる。
澪と徳山先生は斜め同士に座っていた。
先生たちがすすんで話を展開していく。
「私、去年も2年生の修学旅行に引率したんですけど、本当にホテルから抜け出す生徒が多かったんですよ」
星先生はおしゃべりなので、早速話し始める。
「だから、フロア貸し切りってことなので……ホテルのエレベーターと階段に何人か見張りとしてつければおそらく去年みたいなことにはならないと思うんですけど……」
そこまで言って、星先生が急に徳山先生に話を振る。
「ね、どう思いますか徳山先生?」
徳山先生は腕組みしたまま、目を細めて首を振った。
「私は今回初めての引率なので、よく分かりません。決めていただければ従いますから」
「あら、そう?」
星先生はコミカルな動きでわざとらしく笑うと、今度は芦屋先生に話を振った。
「芦屋先生は……あ、そっか。あなたも初めてよね」
芦屋先生はまさか自分に来るとは思っていなかったらしく、名前を呼ばれた瞬間少しびっくりしたような顔をしていた。
「あ、はい。すみません」
「気にしないでね。2人とも若いから頼りになるわぁ」
星先生は目に見えてテンションが高かった。
クラスでこんな姿をあまり見たことなかったので、私は意外な気がして目の前の星先生を眺める。
すると、隣の澪が机の下から小さなメモを渡してきた。
何事かと思ってメモをこっそり開くと、ただ一言
「男好き」
と書いてあった。