こころ、ふわり
9 温もり
いよいよ弓道の大会の日。
お父さんに車で送ってもらって、私は試合会場となる弓道場に到着した。
この弓道場は今までも試合で何度も足を運んだことがあったので、応援席の場所もしっかり把握していた。
応援席に行くと菊ちゃんのお母さんがすでにいて、私を見つけると笑顔で大きく手を振った。
「萩ちゃーん!こっちこっち!」
もともと菊ちゃんの家には何度も遊びに行ったり泊まりに行ったりしていたので、お母さんとも仲良くさせてもらっていた。
「席とってたから」
そう言って、隣の席からバッグを取って空けてくれた。
「ありがとうございます」
私が頭を下げると、菊ちゃんのお母さんが残念そうに顔を曇らせる。
「菊江から萩ちゃんが怪我して大会に出られなくなったって聞いた時はビックリしたわよ。もったいなかったわね、直前だったのに……」
「また次の試合に出られるように頑張ります!その前に怪我をちゃんと治さないと」
私は気持ちの切り替えもすっかり出来ていたので、包帯が巻かれている左手でガッツポーズをして見せた。
「今日は私の分も菊ちゃんに頑張ってもらわないと。応援頑張りましょうね」
「うん!ありがとう」
菊ちゃんのお母さんもやる気満々なのか、どこかのアイドルのコンサートに使うような大きいうちわを2つ持っていた。
うちわには「菊」と「江」という字が派手な色使いで書かれている。
お母さんは私に「江」の方を渡してきたので、とりあえず受け取った。