こころ、ふわり
高校二年生、初夏。
私は弓道部に所属していて、毎日放課後は部活に行って練習していた。
梅雨も明け、試験も終わり、夏休みがあと一週間ほどで始まるという頃。
私はうだるような暑い日の放課後に、見たことのない男の人に声をかけられた。
「すみません」
低くて、落ち着いた声。
最初は自分に声をかけられているなんて思わなかったから、返事どころか顔も上げなかった。
部活の練習で10分の休憩をもらったので、袴姿のまま水道のあるところで顔を洗って汗を流していた。
「すみません」
また、同じ言葉。
まさか、私に話しかけてるのかな?
私は慌てて水道から顔を離し、タオルで拭き取ってから辺りを見回した。
そばに、背の高い知らない男の人が立っていた。