こころ、ふわり
ご飯を食べ終え、ファミレスを出て目的のカラオケ店へ向かう途中で、隣で菊ちゃんが急に目を見開いて驚いたように私の肩を揺らしてきた。
あまりにも激しく揺らすから、何事かと思う。
「菊ちゃん、どうしたの?」
「萩、あれ見て。徳山先生じゃない?」
「徳山先生?」
徳山先生というのは、うちの学校の世界史を担当している男の先生だ。
おそらく歳は20代後半くらいだろうか。
とにもかくにも、徳山先生は人気があった。
もしかしたらサッカー部の三枝先輩を凌ぐくらいかもしれない。
私でさえ目の前で二人きりで話すことになったらドキドキしてうまく話せないくらい、本当にかっこいいのだ。
高校生の私たちからしたら、大人の男の人っていう感じがして、なんだか別世界の雰囲気を持っている。
「ほら、あそこ」
菊ちゃんは急にヒソヒソ声になり、私の耳元で耳うちしながらある方向を指さした。