こころ、ふわり


芦屋先生に家まで送ってもらったという菊ちゃんに話せないことは伏せて、先週あった出来事を話した。


真司に大会で優勝したらデートしてほしいと言われたこと。


修学旅行のホテルの見張り番が先生と一緒であること。


見ているだけでいいと先生に対して思っていたはずが、気づいたらもっと知りたくなって、もっと話したくなってしまったこと。


先生に彼女がいるか、好きな人がいるか思い切って聞いたこと。


気になる人がいると答えられたこと。


そのことが原因なのかは分からないけれど、今日の授業で先生が私と距離を置いているような気がしたこと。


さすがに真司に抱きしめられたことまでは恥ずかしくて言えなかったけれど、言える範囲で菊ちゃんにすべて話した。


菊ちゃんは落ち着いた様子で私の話を聞いてくれて、聞き終わったあとに言った言葉はとてもシンプルなものだった。


「真司とデートしてみたら?案外楽しくて、芦屋先生のことなんて考えなくなるかもよ」


それはもしかしたら言われるかもしれないと想定していたセリフだった。


「でもさ、失礼だと思わない?違う人が好きなのにデートするって」


私だったら、他に好きな人がいるのにデートなんてされたら悲しくてつらくなりそうだ。


でも菊ちゃんの考えは私とは少し違っていた。


「真司がそれでもいいって言ってるんだから大丈夫でしょ」


「そうなのかなぁ……」


腑に落ちない私の様子を見て、彼女は苦笑いを浮かべる。


「もちろん私としては萩の気持ちを応援したいから、芦屋先生とうまくいってほしいって思ってるよ?でもさ、うまくいってないじゃない?そういう時に支えてくれる人がいるって嬉しいじゃん。甘えまくって頼りまくっていいんだよ」


菊ちゃんはいつも私が思っていること以上のことを言う。


真司に甘えて頼る自分の姿がまったく想像できないし、芦屋先生以外の人を好きになる自分も想像できない。


ただ、菊ちゃんのこの言葉だけは覚えておこうと思った。

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