こころ、ふわり


よっぽど視力が悪いのかメガネを外すとさらに顔をしかめていて、その顔が面白くて笑いそうになる。


「笑わないでよ」


「す、すみません。でも先生、すごい顔するんだもん」


私は笑いをこらえ切れず、吹き出してしまった。


「吉澤さんは、笑ってる方がいいね」


不意に芦屋先生にそう言われて、私は彼の顔を見つめた。


先生は私の顔がよく見えないからなのか分からないけれど、こちらの方は見ていなかった。


私は右手をギュッと握りしめて、


「私も……芦屋先生は笑ってる方がいいです」


と言った。


一瞬、芦屋先生の瞳が揺れたような気がしたけれど、私のいる場所からはよく見えなかった。


そこからは私と先生は言葉を交わすことなく、お互いに黙々と作業を続けた。


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