こころ、ふわり
「先生は一人暮らしですか?」
階段をのぼったところで私が尋ねると、芦屋先生は一瞬目を丸くしたあとに耐えきれず吹き出した。
「一人暮らし以外に無いでしょ」
「あ、そっか」
極度の緊張からか、私の思考回路は明らかにパンクしていた。
もはや当たり前なことも通じないようになっているらしい。
そうこうしてるうちに先生は一番奥の部屋の前で立ち止まり、鍵を開けてくれた。
玄関でびしょびしょに濡れた靴を脱ぐと、芦屋先生が手前の脱衣所と思われるところからバスタオルを持ってきてくれた。
私も先生も、髪の毛から服から靴まですべて雨で濡れていた。
風が強くて雨を避けることが出来なかったからだ。
「寒くない?」
先生に聞かれて、私は「大丈夫です」とうなずいた。