こころ、ふわり
彼はこんなに暑い日だというのにスーツを着ていて、とても気の毒に思えた。
歳は20代半ばくらいだろうか。
涼しい顔、というのがピッタリな顔つきだった。
暑そうに顔をしかめるわけでもなく、「適温です」みたいな顔。
私が彼の顔をぼんやり見つめていると、彼はふと柔らかい笑顔を浮かべた。
「事務所ってどこにありますか?職員室は二階だと聞いたんですが、事務所も二階なのか分からなくて」
「事務所?」
聞き返した自分の声が、恥ずかしくなるくらいひっくり返って、しかも震えていた。
なんでだろう?
私、この人と初対面だから緊張してるのか?
そんなことを思いながら、
「あ、事務所は一階です。玄関入って廊下を右に曲がると見えます」
と、とりあえず説明した。