こころ、ふわり


私が先生のそばまで行くと、先生はなにやらポケットから取り出してきた。


それは私のシルバーの腕時計だった。


「洗面所に置いてあったよ。吉澤さんのだよね?」


そうだ。
いつの間にか無くなっていた私の腕時計。


やっぱり先生の家に忘れてきてしまっていたのだ。


「すみません!私のです」


謝ってから腕時計を受け取る。


「あ、私からも」


このチャンスを逃してはいけないと、スケッチブックの間からクロード・モネの画集を出して、先生に渡した。


「これ、ありがとうございました」


「もういいの?」


「はい。暗記するくらい見ちゃいました」


私の言葉で先生は笑っていた。


「来年、市内の美術館でモネの展覧会があるらしいよ。吉澤さんなら楽しめるんじゃないかな」


芦屋先生はそう言いながら画集をパラパラめくって目を通していた。


「え、そうなんですか?」


それは知らなかった。


ぜひ行ってみたいと思った。


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