こころ、ふわり


芦屋先生が私のことをちゃんと覚えていてくれて、なおかつ「吉澤さん」と呼んでくれたことも嬉しかった。


そしてなによりも嬉しかったのは、私のことを心配してわざわざ保健室まで来てくれたことだった。


また、胸がモヤモヤ、フワフワと浮き上がるような感覚。


「今日は早く休んで、おうちでしっかりご飯食べなよ」


芦屋先生は私に笑いかけると、


「じゃあ、そろそろ行くね」


と声をかけてカーテンを開けようとした。


もう行っちゃうの?
もっと話していたかったのに。


「芦屋先生」


まだ行ってほしくなくて何も考えずに呼び止めてしまった。


「どうした?」


当然のことだけど、先生は足を止めて私の顔を見つめてきた。


「あ、あの……じゅ、授業……芦屋先生の授業、楽しみにしてます」


どうにかしぼり出した適当な言葉だったのに、芦屋先生はうなずいて


「うん、楽しみにしててね」


と微笑んだ。


芦屋先生はいつもにこやかだ。
きっとそれは私だけに対してじゃなく、生徒みんなに対して。


心穏やかに接してくれる先生が、とても大人に感じた。


「気をつけて帰ってね」


「はい」


芦屋先生の言葉にうなずいた私は、彼がカーテンを開けて出ていったのを確認するとドサッとベッドに倒れ込むように横になった。


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