こころ、ふわり


「あの……先生?」


私が震える声で呼びかけると、先生は首をかしげた。


「なに?」


「あの、あのですね……お気づきかもしれないんですけど……私、男の人と付き合うのが……は、初めてなんです」


私の突然のカミングアウトを聞いて、先生は少しびっくりしたのか「そう」とだけ返してきた。


「だ、だから……あの……」


言いたいことがうまく言えず、もどかしい。


私の気持ちを代弁するつもりで、先生は


「キスしないから安心して」


と優しく言った。


「違うんです」


私は急いで首を振って先生の袖を握った。


「あの……キスを……キスをしてもらう時はどうすればいいですか?」


「え?」


先生は私の言葉を聞き返したあと、そういうことかと理解したのかフッと微笑むと


「じっとしてて」


と言った。


そしてすぐに私の背中に先生の手が回されて、抱き寄せられた。


そのまま先生が首を少しだけ傾ける。


唇が重なった。


< 374 / 633 >

この作品をシェア

pagetop