こころ、ふわり
冬休みの間に芦屋先生に会えたのは、あのクリスマスの日だけだった。
先生は年末年始から1週間ほど隣県の実家に帰っていて、短いメールのやりとりくらいしかしていない。
冬休みに部活で学校に来ていても、先生を校内で見かけたりすることも無かった。
「萩は待ち遠しいでしょ?明日から芦屋先生に会えるもんね」
菊ちゃんの何気ない言葉が胸に突き刺さる。
たしかに待ち遠しかったけれど、前のそれとはまた意味が違う。
前は片想いだったけれど今は恋人になったから。
「あ、あのね、菊ちゃん!実は……」
私は思い切って先生とのことを菊ちゃんに打ち明けようとすると、不意に菊ちゃんが「あ!」と声を上げた。
菊ちゃんが誰かに向かって手を振っている。
その先には私の知らない男の子が立っていた。
他校の制服を着ていて、笑顔で菊ちゃんに手を振り返していた。
「萩に紹介したくて」
と、菊ちゃんは彼の手を引っ張って私の元へ連れてきた。
「この人が村田くんだよ」
彼はそんなに背は高くなかったけれど、細身で清潔感があり、なによりもニコニコとした朗らかな笑顔が特徴的だった。
「初めまして。よく菊江から名前を聞いてて、ずっと会ってみたかったんだ」
村田くんはそれはそれは爽やかな笑顔で私に会釈してくれた。
「あ、初めまして!吉澤萩です」
私も急いで頭を下げる。