こころ、ふわり
「ありがとう。練習頑張ってね」
彼はそう言い残し、来客用の玄関へ向かっていった。
その背中が、ちょっとだけ猫背で笑えた。
そして、ほんの一瞬の、ほんの少しのやり取りだったのに、私は妙にドキドキして、変な高揚感があった。
「なんだこれ…」
思わずつぶやいてしまうくらい、胸のあたりがモヤモヤして、でもフワフワしたような感覚になった。
出しっぱなしにしていた水道にようやく気づいて、やっと蛇口をひねって水を止めた。
「萩!」
ぼーっとしていたら急に名前を呼ばれたので、ビックリしながら振り返ると、部活仲間の菊ちゃんが遠くで手を振っているのが見えた。
「休憩終わりだってー!」
「いま行くー!」
私は菊ちゃんに返事をして、タオルを手に袴をたくし上げていそいそと水道を離れた。