こころ、ふわり


いつも真司は強引だ。


ちょっと私が言い返してもうまく言いくるめられたり、その場をごまかして逃げたりする。


美術室に到着すると、クラスメイトのほとんどがすでに各々好きな席に着席していて、準備は出来ているようだった。


真司の姿を探すと、あろうことか一番前の目立つ席で私に手を振っていた。


「なんであんな席……」


あんな席にいたら、芦屋先生の目の前で授業を受けることになってしまう。


美術室の入口で立ち止まっていると、後ろから


「大丈夫?机あまってる?」


と声が聞こえた。


ちょうど芦屋先生も美術室へ来たところらしく、私が入口に立っているので聞いてくれたらしい。


先生の服装は今日はさすがにスーツではなく、夏休み中に見かけた時と同じくたびれたシャツとくたびれたチノパンを着ていた。


そして私の顔を見ると、


「あ、吉澤さんのクラスか」


と微笑んだ。


「大丈夫です、今座ります」


急いでそれだけ告げると、真司の隣へ座った。


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