こころ、ふわり
1時間以上かかったけれど、お互いにひとまずお菓子作りは終わった。
洗い物をいそいそ片付けて、私と菊ちゃんはリビングのソファに体を沈めた。
「あのさぁ、萩にお願いがあるんだ」
スナック菓子を絶えず口に運んでいた私は、神妙な面持ちの菊ちゃんの言葉で
「お願い?」
と彼女の方を見た。
「あの……ね、来週の土曜日の夜なんだけど、萩の家に泊まらせてもらうってことにしてもいいかなぁ?」
「あ、うちに泊まりに来るの?いいよ、日曜日ちょっと用事あるけど」
来週の日曜日は市内の美術館に芦屋先生とクロード・モネの展覧会に行く約束をしていた。
私がそう答えると、菊ちゃんは「違うの」と首を振った。
「アリバイ作り。本当は村田くんとお泊まりなの。万が一親にバレたら怒られるからさ」
「お、お泊まり……」
私はドキッとしてしまった。
「そういうことなら、もちろん協力するよ」
と快諾すると、菊ちゃんはホッとしたように笑顔になった。
「ごめんね、こんなこと頼めるの萩しかいないからさ」