こころ、ふわり


私は自分の手元を見下ろして、その手をゆっくり握った。


「それに……菊ちゃんは村田くんを紹介してくれたけど、私はそういうことも出来ないし」


「隠れてデートしてるの?」


「うん。変装してる」


菊ちゃんは私の「変装」という言葉が面白かったらしく、ひと笑いしたあと


「先生だってそういうことを踏まえて萩と付き合ってくれてるんでしょ?友達に紹介なんて卒業してからいくらでも出来るよ」


と優しい声で言ってくれた。


菊ちゃんのひとつひとつの言葉がすべて嬉しくて、私は今まで黙っていた自分を悔やんだ。


もっと早くに伝えておくべきだった。


「芦屋先生と付き合ってみてどう?あのままって感じ?」


菊ちゃんに尋ねられて、これまでの先生とのやりとりを思い出す。


芦屋先生はいつでも落ち着いていて、私が浮かれて1人で空回りしているのをそっと落ち着かせてくれるようだった。


そしていつも穏やかで、温かい。
2人の時は、よりいっそう笑ってくれる。


「もうね、私にはもったいないくらい。私でいいのかなってつねに考えちゃうくらい、本当に本当に優しいんだ」


「萩、可愛い〜」


菊ちゃんが聞くから正直に答えたのに、彼女は茶化すように私の肩をつつくのだった。


そして


「じゃあ今日作ったチョコは、明日ちゃんと渡せるね」


と、微笑みかけてくれた。


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