こころ、ふわり


私がまず驚いたのは、世界史の授業のあとだった。


月曜日の午前中に徳山先生の世界史があるのだけれど、授業が終わった途端、何人かのクラスメイトの女子たちが立ち上がって先生に駆け寄っていた。


それぞれ袋を持っていて、口々に何か言いながら徳山先生に渡そうとしている。


「もらうことはできません」


と徳山先生が無表情で突き返しているのが見えた。


「来月、返すのが面倒なので」


それだけ言い放って、先生はスタスタと教室を出ていってしまった。


取り残された女子たちは、肩を落とす子もいれば、ヤケになって自分で食べている子もいたり、そのへんの男子に上げている子もいた。


「徳山先生、かっこいい〜!彼女からしかもらわない主義なのかなぁ?ホワイトデーが面倒だとか、徳山先生だから許されるセリフだよね」


遠巻きに見ていた菊ちゃんが興奮したように私に耳打ちしてきた。


先生はきっと今日は、毎時間どこのクラスに行ってもこんな感じなのだろうな。


毎年この日は断る方が忙しそうだ。


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